ようこそ、サンセット・ブック・クラブへ。
本はお好きですか?
はい!わたし達は本が大好きです。
本を読むことも、音楽を聴くことも。映画を観ることも、大好きです。
ふむふむ、うんうん、なるほど、うわぁ。
そんな気持ちをくれた一冊をご紹介します。
サンセット・クルーに加えて、わたし達の読書仲間からもお届けします。
本の虫はこころの土を豊かにします。
ハートの肥料に一匹、本の虫をどうぞ!
穴を掘り出したんだよねぇ・・・
と、ある日友人が言った。彼の子どもだ。
掘ったらどうなるのかしら、と、
庭に穴を掘り出したそうだ。
毎日彼はただ掘り続けているそうだ。
掘った後には何やらぶつぶつ言って、次の方向を確認しているらしい。
「・・僕が小学3年生の頃、よくしていた空想の遊びがある。
ある日、授業中にお腹がすごく空いて、「あぁ、ウインナーが食べたい」と思い、
そのことだけが、頭の中を占領していた。そして、ウインナーの味ってこうで・・
と思い出していたら、あたかも実際に食べているかのように、歯で皮がぱつん!と弾け、
肉の汁が口の中に広がったような感覚(!)があった。食感、味、香り・・・、
ありありとウインナーを感じられて、それからいろいろな食べものの味を思い浮かべ、
食べた気になる遊びをしていた。今になって、あの遊びがとても役に立っているなぁ、と思う。
食材同士が、味、質感、風味、色など、調和するものが思い浮かべられるようになったから」
西荻窪にある食堂くしま。素朴な扉を開けると、どこかでかいだ懐かしい匂い。
サンフランシスコ。チャイナタウンの先にあった、
イタリアン・レストランだ。貧乏学生だった私は、日本から誰かが来ると
ガイド代のかわりにそこで、食べさせてもらったんだっけ。
きっと家族でやっている、小さなレストラン。
薪でくべた窯で焼いた熱々のピッツァ。濃いみどりのサラダには
オイルとレモン、それからなにかのスパイス。それなのに、何層にも味がある。
チーズもオイルもたっぷりで、量もなかなかのものだったけれど
ふしぎなことに食べながら軽くなっていく、そんな感覚があった。
あの頃を懐かしく思いながら席に着き、彼の料理を口にして
あっと思った。これも同じ。シンプル、かつ、大胆な味。
そして軽くなる感じ。からだとこころ、プラスたましい?が悦ぶ感じ。
おもしろいなぁとまるくなったお腹を抱えて家に着いた。
後日、「食堂くしまのレシピ帖」を開いたらその謎が解けた。
「食べもの、料理には、作った人のエネルギーが入ると思っている。
美味しく食べてもらいたいと、丁寧に作られた料理は、
それとわかるような、澄んだきれいな味と、見た目になるように感じる。
丁寧に作られた料理の、澄んだきれいなエネルギーは、食べる人の体に取り込まれ、
その人の体を作っていく。だから僕はいつも、おいしい料理が作れるよう、自分が心身ともに
健やかな状態でいられるように、心がけている。」
彼はコツコツと、「小学3年生の彼」を守ってきたのだ。
あのとき感じた伸びやかなものを、なるべくつぶさないように。
ささやかに、注意深く。1人きりで守ってきたのだ、きっと。
からだを使って、からだのためになることをするひとに
大切なのは健やかな心身であることーー
その健やかさとは、自分の中にいる子どもの自分、に忠実である。
ということなのかもしれない。
食堂くしまはもうすぐ終わってしまうけれど、きっとこの先も、色々な形で彼のエネルギーが広がっていくのだろう。
美味しい時間を、ありがとう。
さて、冒頭の話の続き。もし、何も出てこなかったらどうするの?
彼が訊いたら、その子どもは
出てきてもいいけど、べつに何か出てこなくてもいいよ。
と答えたそうだ。